2010/08/08

観光立国を目指すわが国に一石を投じる「スイス列車事故」にみる危機管理

観光立国を目指す日本にとって見逃せない記事が掲載されていました(以下参照)。

事件・事故の大小にかかわらず社会に対して大きな影響を与えると考えられる場合その対応は特に重要で、対応如何で企業の場合であれば、その後の企業の業績に大きな影響を与えます。記事の中でも書かれているシンドラー製のエレベーター事故と比べれば、スイス列車事故の対応は、観光立国を目指す日本のみならず企業などにとって見習うべき対応ではなかったかと思います。また多くの死傷者をだしたJR西日本で起こった脱線事故などと比較してもよいと思います。

ここで知っていただきたいのは、事故を起こした企業の罪を軽減するにはというものではありません。

企業活動を行うということは、大小問わず常に何らかのリスクを抱えながら事業を行っており、企業は事件・事故を起こさないよう日々努力しています。しかし完全には封じ込めないのも事実です。

企業・個人とわず社会で何らかの活動を行うということは社会的責任も負うということです。社会的責任とは、法令・条例などを遵守し活動することに加え、社会道徳や倫理観というものも問われるようになっています。

何らかの事故が、物理的・従業員の人為的ミスによる事故であっても、社会は事故を起こした企業の倫理観を求めます。つまり今回の事故でいうと、事故にあわれた方やその家族の立場にたって対応する真摯な姿勢。事故にあわれた方やその家族と社会の心情を汲んだ対応といことです。 それは一方で、企業の生き残りがかかっているということで、今回の場合は観光立国スイスとしての看板にもかかっているということです。

事故にあわれた方への責任は企業側に過失があった場合は重いのは当然です。しかし、その企業には取引会社、地域産業と住民、従業員とその家族などなど多くの方々の生活を支えているのも事実であり、企業が多くの生活者の生活の基盤であり、社会の一員であることも理解する必要があります。

つまり、事故は事故としてその原因究明とそれに基づいた法的判断を行い、企業に責任がある場合はその制裁を受ける必要があります。それは司法に任せればよいことです。我々が見なければいけないのは企業の人格とその企業が創り出す一つの社会(経済)です。事故を起こしたのは事実ですが、その重さを十分に理解し教訓とし、より安全に列車運行していける会社であるかを見極めることです。シンドラーは、まさしくその点で社会に認められなかったといってよいでしょう。

シンドラーについては事故後の対応のまずさが、日本での企業活動をいまだに困難にしていると聞きます。事故後のシンドラーの対応がシンドラーのエレベーターは危険との印象を強く抱かせる結果となりました(その明確な根拠を自覚している人は少ないと思い ます)。しかし事故の原因の多くは設置後点検・管理していた企業に問題があったのではと思います(個人的意見ですが)。当時、シンドラー製のエレベーター は世界シェア1位、エスカレーターは第2位だったと記憶しています。

「誰も知らない。いきなりのシンドラー。そしてあの対応」。つまり事故以前に日本社会に対してシンドラー製品は世界で信頼されている製品であることの認知と理解を醸成し、事故後の対応についても適正に行われていれば、シンドラーに対する社会の目は、全く変わったものになったのではないでしょうか。

例えば、事故を起こしたのはある企業が販売している機器を使っていた人の不注意で起こった場合でも「○○製の機器で爆破事故」などと報道されるケースは少なくなく、事故の原因が企業になくとも、その報道を目にした多くの人は「○○会社が悪いのだ」と思ってしまいます。

企業にとって誤解をまねかれかねない報道があったとき、社会に耳を傾けてもらえる環境を作っておくことも重要で、その為には企業市民として社内外問わず企業自身について自ら広く社会に伝え、自身を知ってもらうための活動も危機管理では重要となってくると言うことです。それは、シンドラーのケースを見ても明らかです。

今回のスイス列車事故で、危機管理対策は事故を未然に防ぐ取り組みは当然のこととして、企業として社会に対し認知・理解を深める日々の活動の重要性、不測の事態が起きたときの真摯な態度と社会への説明が、いかに重要であるかを改めて考えされられました。

日本の観光産業においては、テーマパークや遊園地などで安全確認を怠ったための重大な事故、宿泊施設の火災などは後を絶ちません。近年の異常気象により多く発生するようになった集中豪雨、そのために起こる土砂崩れにより道路が不通となり、山奥のキャンプ地や温泉地の観光客が自衛隊により救出されることも珍しい出来事ではなくなってきました。

今回のスイス列車事故では、日本人が多く乗車いていたことを重視し、日本人の心情を考慮した対応を行いました。外国人観光客の誘致を積極的に行う日本政府、観光産業界に対し、この記事に書かれた対応は一石を投じるものではないでしょうか。

記事を締め括るスイス政府観光局日本アジア支局長、ロジャー・ズビンデン氏のコメントは、深く、印象的です。

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 スイス列車脱線:「観光立国」素早い対応
毎日jp(8月6日付 毎日新聞 東京朝刊)より

◇日本を意識「まず謝罪」/調査結果を「暫定発表」
【ジュ ネーブ伊藤智永】スイス・アルプスの観光列車「氷河特急」の脱線事故は6日で発生から2週間を迎える。発生から2日後に運転を再開、わずか1週間でスイス運輸当局が原因をほぼ断定し、鉄道会社が謝罪するなど対応の素早さが目を引いた。「観光立国」として、平素から官民一体の危機管理体制を敷いているため だ。日本人のスイスに対する好印象が悪くならないよう、メディア対策は死傷者が最も多い日本を意識して行われた。

◆シンドラー社の教訓
一連の対応には、陰の振り付け役がいた。スイス政府観光局日本アジア支局長、ロジャー・ズビンデン氏(49)。東京・虎ノ門に事務所を構え、日本在住7年。仏独英語のほか日本語もこなす。

事故の前日たまたまスイスに一時帰国。7月23日は休暇に出かける途中で事故発生を知り、直ちに南部ブリークにある運行会社マッターホルン・ゴッタルド鉄道(MGB)本社に駆けつけた。

氷河特急にとって、日本人は乗客の平均24%を占める上得意だ。ズビンデン氏は、社長ら幹部に日本人の特性に配慮した対応をきめ細かく助言した。

「欧米では技術的な事実を知りたがるが、日本人は心情をより大事にするので、まず先に謝罪すべきだ。記者会見には、ネクタイを締めて臨むこと」

引き合いに出したのが、スイスにグループ本社のあるシンドラーエレベータ社の失敗例だ。06年に東京都港区の高層住宅で、高校生がエレベーターにはさまれ死亡。同社は発生9日後まで会見を行わず、住民に釈明したのは10日後。メディアや消費者の反感を買い、社長は辞任に追い込まれ、事故の告発が相次いだ。

「対応を誤れば、氷河特急もシンドラーの二の舞いになる」。MGB社は忠告に従い、記者会見には社長が出席し、事故原因が分かる前から謝罪。スイス国内では「異例のこと」と驚きをもって受け止められた。

広報担当者らは日本メディアの取材に丁寧に答え、「発生2日後の運行再開は、安全な証拠。日本とは手続きも考え方も違うことを理解してほしい」と訴えた。

◆官民一体でメディア対策
政府の公共交通事故調査局(SEA)の対応も異例ずくめだ。「中立機関なので観光局の指図はない」というが、事故の翌日、3日後、1週間後と立て続けに責任 者のコベルト氏らが記者会見。検分中の事故車両も公開する積極的な情報提供で、公正・迅速な取り組み姿勢を印象づけた。

当初「暑さでレールが変形した」「砂利の入れ替え作業に問題があった」といった憶測が流れたが、早々に否定した。

発生直後は「数週間はかかる」としていた調査結果について、最終確定を待たず1週間で「暫定発表」したのは、通常の手続きで疑心暗鬼を長引かせるより、できるだけ早くマイナスイメージを封印したい狙いがあったとみられる。

暫定発表の会見は、地元バレー州代表と事故調査局のコベルト氏のほか、事件の「被告」に当たるMGB社、捜査当局の州警察と今後の訴追を担当する検察(予審 判事)がずらりと顔をそろえる異例の陣容だった。観光局のズビンデン氏も会場の隅で見守り、官民一丸となったメディア対策をうかがわせた。

ズビンデン氏は毎日新聞の取材に「ここまでの危機管理はうまくいったが、まだ終わっていない」と語った。

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